世界で一番「不細工な」生き物は? と聞かれたら、ブロブフィッシュを思い浮かべるかもしれない。ピンク色のぶよぶよしたゼリーのような体に、への字になった口、大きく垂れ下がった鼻が特徴的な魚だ。2013年に「世界一醜い生き物」に選ばれると、この風変わりな生き物の人気は急上昇。この魚をネタにした画像や動画、歌やぬいぐるみが作られ、テレビアニメのキャラクターにもなった。
【動画】不細工な生き物5選(ページ中ほどにあります)
しかし世間一般に広がっているイメージは、ブロブフィッシュに対する誹謗中傷にほかならないと科学者のリチャード・アーノット氏は言う。ブロブフィッシュがピンク色の「醜い」姿をしているのは、本来のすみかである深海から遠く引き離されたためだ。急激に海面に引き上げられたことで、水圧の大きな違いから細胞組織がダメージを受けた。深海ではごく普通の魚であるブロブフィッシュの真の姿を紹介しよう。
外見
深海では、ブロブフィッシュはほとんど目立たない存在だ。丸い頭部と尾に向かって細くなる体はオタマジャクシのようで、大きな口とうちわのような胸びれを持つ。硬い皮膚も強い筋肉もなく、水圧の力で体の形状を保っている。このため、急に海面に引き上げられると、水圧の差によってぐにゃっとした姿になってしまう。
非常に深い海に暮らす魚のため、生息地で観察することは難しい。ブロブフィッシュについてこれまでにわかっていることは、死んで海面に引き上げられた個体から得られたものだ。
生息地
ブロブフィッシュが暮らすのは大西洋、インド洋、太平洋の水深約600メートルから1200メートルの暗く冷たい海底だ。
海の生き物の多くは、光が届く海面から水深約200メートルまでの表層で暮らしている。200メートルより深い海は、生き物が生きていくには過酷な環境だ。この闇の世界に適応した生き物の中には、ダイオウイカ、アンコウ、生物発光することで知られるハダカイワシなどがいる。
科学者にとっても、深海の大部分はいまだ謎のままだ。水深約200メートルから光の量は急激に減り、1000メートル以深になるとまったく届かなくなる。日光が届かないため、水温は約4℃。光合成も行われないため、生き物の餌になるものはほとんどない。
海が深くなるほど、その上にある水の重さで水圧も高まる。 水深1000メートルでの水圧は、地上気圧のおよそ100倍だ。この深さでは、人間の肺など、空気が入っている部分はつぶれてしまう。