171匹の猫のリスト
「猫を増やしてしまい、不妊去勢手術をするように言っても聞かない」。8月下旬、特定非営利活動法人「群馬わんにゃんネットワーク」に、そんな相談が寄せられた。高崎市で猫の多頭飼育崩壊が起きているという内容だった。飼い主は一人暮らしで、相談を寄せたのは離れて暮らす親族だった。
群馬わんにゃんネットワークは、9月上旬に初めてその家で飼い主と会った。すると飼い主から171匹の猫のリストを渡され、そこには猫の名前やしっぽの形などが記されていた。「家にいる猫で、みんな生きている。このリストに載ってない猫もいる」と説明されたという。
それから数日後、飼い主は入院してしまう。世話をする人がいなくては猫が餓死してしまうため、群馬わんにゃんネットワークは飼い主から了承をとり、毎日この家に猫のフードと水を運び、世話を続けた。飼い主は、遅くても2013年には猫を飼っていたとみられ、世話ができなくなったのは今年の8月後半からと説明しているという。
猫たちの世話を続ける中で、群馬わんにゃんネットワークのメンバーは、妊娠しておなかの大きな猫が5~6匹いることに気づいた。ある日ふっくらしていたおなかがぺたんこになっていて、出産したような跡もあるが、肝心の子猫はほとんど見当たらなかった。共食いの犠牲になったとみられ、その形跡も部屋の中に残っていたという。
崩れ落ちたキャットタワー
群馬わんにゃんネットワークは、猫の不妊去勢手術を急いだ。これ以上猫の数が増えてしまうことは、なんとしても食い止めなければならなかった。他の動物愛護団体とも協力し、飼い主の了承を得た上で、これまでに家の中にいた約170匹の猫を捕獲し、うち26匹は複数の動物愛護団体が引き取り、残りの猫たちを動物病院に運び、不妊去勢手術を受けさせた。手術の費用は、群馬わんにゃんネットワークに寄せられた寄付でまかなった。
筆者は、10月中旬に行われた猫の捕獲作業に同行させてもらった。玄関を開けた瞬間から、悪臭が鼻をつき、家の中のあちこちに糞尿が堆積している。不織布の防護服を着て中に入ったが、服や髪に臭いが染みついた。畳はぼろぼろで、キャットタワーはばらばらになって崩れ落ちていた。 この日、家の中から猫の遺体が3体見つかった。群馬わんにゃんネットワーク理事長の飯田有紀子さんは、「生まれてすぐに共食いされてしまった猫も、病気になってだれにも声をかけられずに亡くなっていった猫もいるでしょう。この家で、いったいどれだけの命が失われたのか」と話す。